エンジン始動時のキュルキュル音、エアコン使用時のキュルキュル音。かん高くて耳障りで、ご近所にも迷惑ですね。走り出すと音が止まったり、アクセルを踏むと自然と鳴き止むので、我慢してしまう人も多いのではないでしょうか。ここではスズキワゴンRで私が経験した事例を紹介したいと思います。
キュルキュルが鳴る車の原因
私の狭い経験の範囲で語りますが、キュルキュル音の原因は「オルタネーター」であることが多いです。オルタネーターはダイナモとも呼ばれ、エンジンの回転で交流を発生させ、それを直流に変換してバッテリーを充電する電装品です。詳しくは↓こちら↓をご覧ください。
スズキワゴンR|MH22Sのオルタネータ交換
スズキ車はキュル音が鳴りやすいと言われています。スズキとしても対策は行っているようですが、それでもキュル音に悩まされる方はまだまだいらっしゃいます。
通常でしたらリビルト済のオルタネータと交換なのですが、「ベアリングだけ交換したらいいんじゃないの?」とふと思いつき、ベアリングだけ交換を試してみることにしました。
オルタネーターの外し方
今回キュル音で対処を行ったのは、MH22Sという型式のワゴンRです。この型は下回りにすき間がなく、オルタネーターを外すまでが一苦労です。最終的にはエンジンの右のマウントを外してエンジンをズラし、すき間からオルタネーターを取り出します。その過程で脱着が発生しますので、以下の部品は手配しておいた方が良いです。
- ベルト全数
- マフラースプリングボルト
- 球面ガスケット
- スーパークーラント
- タイラップ
使用するベアリングはNTN社製の6302LLUです。ベアリング屋さんに行けば、700円位で買えます。
オルタネータ脱着までのダンドリは以下です。
- 準備作業
- ベルト全数を外す
- オルタネーターを外す
- エンジンをズラして取り出す
- オルタネーターのベアリング交換
- 組立
- 確認作業
以下、それぞれ説明します。
準備作業
車をリフトに乗せ、F右タイヤとベルトのカバー、バッテリーのマイナス端子を外します。上からの作業と下からの作業が交互に出てくるので、リフトの方が圧倒的に楽です。またオルタネーターの+B端子に触るので、バッテリーのマイナス端子を外しておきます。
ラジエターのドレンコックから冷却水を抜き、ロアーホースを外します。マフラーをフリーにする必要があるので、マフラーの一番先端にあるスプリングボルトを外します。このボルトは錆やすく、固着していることが多いので、アセチレンガスで熱してから外します。ボルトのそばにロアーホースがあるのですが、ロアーホースは遮熱しにくい位置にありますので、ロアーホースをあらかじめ外しておきます。
ベルト全数を外す
エアコンコンプレッサー、オルタネーターのアジャストを緩め、ベルト2本を外します。エアコンコンプレッサーはFバンパーを外すと作業しやすいですが、ナンバープレートを外すだけでもOKです。
アジャストボルトは、工具をかけるとエアコンの配管にぶつかる絶妙な位置にあるので、ちょっと作業しにくいと思いますがそこはブツブツいいながら乗り切りましょう。
また後程エンジンをズラす際に邪魔になりますので、エアコンコンプレッサーはマウントから外してフリーにしておきます。
オルタネーターを外す
オルタネーターの+B端子とコネクターを外します。コネクターは結構シブいです。下側にある14ミリの長いボルトと、上側にあるアジャスターも外します。14ミリの長いボルトが刺さっていたマウントが12ミリのボルト3本で止まっているので、これも外してください。
オルタネーターとマウントは、すき間にバールかなにかを差し込んでこじり、分離させます。
この時点でオルタネーターはフリーですが、すき間がないためどうやっても取り出せません。かなりイラっとしますね。
エンジンをズラして取り出す
リフトを下げ、下にジャッキを滑り込ませ、ジャッキのお皿をオイルパンにあてがいます。ジャッキのお皿にはゴムか何かを敷いて荷重が分散されるようにしておくと良いです。
ジャッキを軽く上げて、進行方向に向かって右側のマウントを外します。14ミリのナット3個と、12ミリの長いボルト1本を外せば、エンジンの右側がフリーになります。
この状態で少しずつジャッキを下げて行きます。ホースやハーネス、ワイヤーに負荷がかかっていないかを確かめながら下げて行ってください。ある程度下げたら、F右タイヤハウスからオルタネーターを取り出します。ここは知恵の輪です。プーリーを自分の方に向けると取り出せるポイントがありますので、根気強く探してください。
オルタネーターのベアリング交換
プーリー取り外し
キュル音が鳴るときは、オルタネーターのプーリー付近にゴムのカスのような黒い粉がついていると思いますので、エアーで吹き飛ばします。
オルタネータープーリーのナットを外します。インパクトに22ミリのソケットをつけて、プーリーを手で押さえながらナットを回します。プーリーとナットはローターにつけたままにして、次の作業に進みましょう。
ダイオードの端子通り外し
ダイオード側のアルミのカバーを外します。8ミリのナット3個を外し、+B端子を締め付ける下側の10ミリのナットを緩めると、カバーが外れ、ダイオードや端子が露出します。
オルタネーターのコイルから、整流器(ダイオード)に4本の端子が出ています。端子は+のボルトで固定されているので、4か所ともボルトを外します。結構固く締まっているので、ナメないようにドライバーを押し付けながら回します。
本体を前後半分に割る
整備士なら当たり前の表現なので間違える人はいないと思いますが、「割る」と言っても壊して割るという意味ではありません。ケースを大きく2つに分けるような作業を割ると言います。
カバーが外れたら、オルタネーターの前半分と後ろ半分を固定している8ミリのナット4個を外します。4個とも外したら、アルミのケースをハンマーでコツコツ叩きます。プーリー側の半分が、先ほど+のボルトを外した端子と一緒に外れます。22ミリのナットとプーリーを外して、4つの端子を曲げないように注意しながら外してください。
ベアリングのカバーを外す
交換するのはプーリー側のベアリングです。アルミのケースを内側から覗くと、ベアリングを覆う四角いカバーがありますので、4本の+ボルトを外してベアリングを露出させます。このボルトも結構シブいので、ナメないように注意しましょう。
ちなみに私は、光軸調整用の長いドライバーを使っています。オルタネーターを床に置いて両足で固定し、体重をかけながらドライバーを回すと、ナメずに済みます。
これでプーリー側ベアリングを交換する準備ができました。
ベアリングをプレスで外す
ケースの前半分に圧入されているベアリングを、プーリー側から押して外します。ダイオードに接続する4本の端子を曲げたり、コイルに傷をつけないように注意しましょう。12ミリのソケットをあてがって、外側から内側に押す感じになります。
ベアリングを圧入する
ケースの前半分をひっくり返し、先ほどの位置にベアリングを圧入します。ダイオードに接続する4本の端子を曲げたり、コイルに傷をつけないように注意しましょう。ベアリング外周サイズ位のソケットで押してもいいし、それより大きいブロックで押しても構いません。ちょうど面位置(つらいち)で止まるので、それ以上押さなくても大丈夫です。
オルタネータ組立
後は先ほどと逆の手順で、オルタネーターを組み立てて行きます。ダイオードに接続する4本の端子を曲げたり、コイルに傷をつけないように注意しましょう(大事なので3回書きました)。
オルタネータマウントのカラーを戻す
この作業は必ずやっておいてください。このひと手間で後々とても楽になります。
オルタネーターの長いボルトが刺さるマウント部分ですが、アルミのマウントに鉄のカラーが刺さっています。カラーにショートソケットをあてがって、万力で挟んで戻します。
組立
オルタネーターを知恵の輪状態でどうにかエンジンの後ろに入れて、外すのと逆の手順で組み立てて行きます。+B端子とカプラーを忘れずに取り付けて下さい。マフラースプリングボルト、球面ガスケット、ベルト2本は新品に交換します。
ベルトはあまり強く張らない方が良いかと思います。スリップが怖いのでつい強く張ってしまいますが、張り過ぎるとキュル音再発につながるので、ほどほどの張りにしておいてください。
配線を固定しているクリップは経年劣化で割れてしまうので、配線がブラブラしないようにタイラップで固定しておきましょう。
ロアーホースを取り付け、ドレンコックを締めたら、冷却水を補充します。室内の温度調節を温風MAXにしてA/Cを停止させ、エンジンをかけ、冷却水を補充しながらエアー抜き。電動ファンが2回まわったら、冷却水を溢れるまで継ぎ足してラジエターキャップを閉めます。
確認作業
発電電圧の確認、冷却水の漏れがないかの確認、A/Cが効くか、警告灯が点灯していないかを確認します。ベルトがダブついているようなら、少しずつ張りを強めに調整します。A/C全開、ヘッドライト遠目、アクセルを踏むなどしてオルタネーターに負荷をかけ、キュル音が鳴らなければOKです。最後に時計など、車内の電装品の設定を済ませれば終わりです。
オルタネーターのベアリングだけ交換した結果
異音は止まり、電装品をMAXで使ってもキュル音は鳴らなくなりました。リビルトのオルタネーターに交換すれば間違いないかと思いますが、サービスカーのようにあまり修理にお金をかけたくない車の場合は、こういう方法もありかと思います。