スズキエブリイバン。荷物も積めて、走りも軽快で、商用車としてとてもいいクルマだと思います。今回は「ガラガラ」という異音が鳴り続ける症状で入庫したエブリイバン(DA64V)の点検と対処方法です。
スズキエブリイバンDA64Vの異音
切り分け
スズキエブリイバンで異音が鳴る場合、原因は色々考えられますが、真っ先にやるのは「切り分け」ですね。
エンジン始動中のみ鳴る、走行すると鳴る、エアコンを使うと鳴る、ライトを点けると鳴る、クラッチを踏むと鳴る、朝の一発目の始動だけ鳴るなど、どういう状況で鳴るかが大事ですね。
エンジン始動中のみ鳴る場合は、アクセルの踏み込み具合に応じて音が大きくなったり、音程が高くなったりするならば、エンジン内部、補器類、ミッションにいずれかが原因と考えられます。
音の種類
音の種類も原因を判断するための大切な材料です。ガラガラ、ガシャガシャ、ゴーッ、キュルキュル、チリチリなど、異音と言っても様々です。例えばキュルキュル鳴るなら、どこかのベアリングに問題が生じていると考えられるし、ガシャガシャなら何らかの破片がエンジン内部やミッション内部で暴れていると考えられます。
異音の原因
今回の事例では、エンジン始動中はガラガラ音が鳴り続けるというもので、加速すれば音が大きくなったり、音程が変わるという異音でした。
ジャッキで前だけを持ち上げてエンジンを始動し、真下に潜って調べてみた所、どうやら補器類のベルト付近から鳴っているようでした。
この時点で何となくですが、ファンベルトの張りを調整するベアリングが怪しいと思いました。ベアリングを手で回して見れば明らかですが、ベルトが張られている状態ではそれもできませんので、ベルトを外していきます。
エブリイバンDA64Vのベルトを外す
エブリイバンの補器類ベルトは2本で、いずれもリブベルトです。カバーを外した後、エアコンベルトを外し、次にオルタネータベルト(ファンベルト)を外します。
エアコンベルト取外し
エアコンベルトは、エアコン本体で張りを調整しています。上部のアジャストボルトを緩め、支点となるボルト2本を緩めてベルトを外します。上部のアジャストボルトの緩み止めボルトと、エアコンの配管が干渉し、非常に外しにくい作りになっています(これが後に災いとなって降りかかってきます)
この時点でエンジンを始動し、異音が消えるようでしたらエアコンコンプレッサーが原因となりますが、予想通り異音は消えませんでした。
オルタネータベルト取外し
オルタネータベルト(ファンベルト)は、テンショナープーリーを緩めて外します。このベルトでオルタネータ(発電機、ダイナモ)と、ウォーターポンプの2つの補器を回しています。
この時点でエンジンを始動したところ、異音が消えました。これで原因は「オルタネータ」「ウォーターポンプ」「テンショナープーリー」の3つに絞れました(少なくともエンジン内部、ミッション内部ではない)。
異音の原因はやはりテンショナープーリー
走行距離が20万キロを超えているという事もあり、テンショナープーリーが真っ先に壊れるであろうと予想していましたが、果たして正解でした。
フリーとなったテンショナープーリーを手で回してみると、ゴリッ、ゴリッという感じで、まるでステッピングモーターのように回ります。ベアリングが回るような軽快な回転は全く感じられません。
エブリイバンDA64Vのテンショナー入手
早速部品を注文します。よく壊れる部品らしく、県内に在庫があり、1時間以内に入手することができました。
純正品番は「17540-68H00」で部品名称は「テンショナ,ウォータポンプベルト」です。この品番で検索すれば、購入できると思います。
楽天ポイントがある方は、↓こちら↓で一度金額をご確認頂ければと思います(商品画像なし)。
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テンショナーを新品と交換し、ベルト2本を取り付け、エンジン始動まであと少しという段階になって、とんでもない災いが襲い掛かってきました。
エアコンベルトを張る方法
エアコンベルトの張りは、エアコンコンプレッサー本体を、ベルトを張る方向に傾けることで行います。本体を傾けるには、アジャストボルトを締める方向に回していきます。
アジャストボルトがエンジンの振動で勝手に緩んだら困りますので、緩み止めのボルトがあります。このボルトが、エアコンコンプレッサーの配管と干渉して、緩めるのも閉めるのも、なかなか難儀なのです。
エアコンコンプレッサーを傾け、エアコンベルトを張るためのアジャストボルトと緩み止めのボルト。この2本の力を受け止めるのがテンショナーです。
図の赤枠で囲った6番がエアコンベルトのテンショナー、7番がアジャストボルト、13番が緩み止めのボルトです。
この13番のボルトを締めようとしたときに、事件は起きました。
エアコンベルトのテンショナーが折れた
13番のボルトを締めようとすると、エアコンコンプレッサーの配管と干渉して締めにくい。それでもどうにか工具をかけて、グッと力を掛けた瞬間、バキッという嫌な音が工場内に響き渡りました。恐る恐る見てみると・・・
ご覧の通り、完全に折れています。新米整備士がやるような失敗を、15年目で二級整備士の私がやるなんて・・・。
言い訳をさせてもらうと、この部品、アルミの鋳物なんです。軽量化のためアルミやプラスチックを多用するのは理解できますが、力がかかる部分にアルミ、しかも鋳物。機械設計としてはダメだろ。
部品を注文すれば済む話ではありますが、またアルミの鋳物が来たら困りますし、部品を待っていたらいつまで経っても終わりません。
なければ作る、それが鈴木の家のDNA。「ここはチャチャッと俺が作るわ」と、工場内に落ちているありあわせの材料で部品をこしらえます。
長さのあるナットを、厚手の鉄板に溶接します。このナットに7番のアジャストボルトが入ります。鉄板のちょうどいい位置に、13番の緩み止めボルトがスポっと入る穴を空けます。カッターで余計な部分を削り落とし、サンダーで角をとって仕上げます。
※完成品の写真は撮り忘れました。
急ごしらえではありましたが、ハンドメイドのエアコンベルトテンショナーを使い、無事エアコンベルトを張ることができました。
異音も消え、当日中にオーナー様に納めることができました。
エブリイDA64V異音の整備料金
今回はオルタネータベルトのテンショナーがなかなかいい金額(定価11,000円)だったため、工賃込み、税込みで20,000円のご請求となりました(エンジンオイル交換も込みの料金)。
この異音、放っておいたらテンショナープーリーがロックし、オルタネータ及びウォーターポンプが回転しなくなります。ウォーターポンプが回転しなければ、数分でオーバーヒートし、エンジン破損で廃車、解体屋さんへドナドナコースでした。
ベアリングだけ交換ってできる?
オルタネータベルトテンショナーはなかなかいい金額ですので、ベアリングだけ交換するというのもアリかもしれません。
ベアリングの型番は「6909DUM1」ですが、これは一般では手に入らないようです。
↓こちらのサイト↓によると、代替部品として「6909VV(C3)」が使えるそうですが、あくまで「自己責任」でお願いしますね。
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今日はチャチャっと俺が作るわ(笑)