東北運輸局宮城運輸支局。いわゆる「車検場」である。
鈴木ボデーのような「認証工場」は、車検整備を終えたクルマの最終審査をここで受けて、審査に合格することで新しい車検証と検査標章(ステッカー)の交付を受ける。
整備を終えたクルマが、5つのコースにそれぞれ並んで審査を受ける。審査を受けに来る人は整備士であったり、ディーラーの営業マンだったり、ユーザー車検を受けにきた素人の人だったり。
余裕を持って審査を受ける人ばかりではないので、審査の直前でバタバタという光景も良く目にする。
車検場で繰り広げられる人間模様をお伝えしようと思う。
お金出しますから切ってもらえますか
1コースに並んでいた時のこと。
前のクルマのハイマウントストップランプに、違和感を感じた。
ハイマウントストップランプはブレーキを踏むと点灯する、いわゆる「ブレーキランプ」。まん中の高い位置で赤く点灯するため、後続車両に注意を促す効果が高く、最近の多くのクルマに装備されているランプである。
私が感じた違和感、それは「全部点灯してないんじゃない?」というもの。そのクルマの場合、横一列に電球が4つ並んでいるのだが、そのうちの一つが切れているのだ。
○○○● ← こんな感じ
うっかり見逃してしまいがちで、検査員の方々も時折見逃してしまう事があるのだけれども、電球1個が切れていても「再検」となってしまうから、放っておけない。
前のクルマが再検になると、私も含め後続車両も迷惑を受けるので、クルマを降りて前のクルマに乗っている整備士に声をかける。まだ若い整備士だ。
ブレーキを踏んで見せて、電球が一つ切れている事を説明する。「どうしよう・・・」という表情の若い整備士。車検場でトラブった経験がないのだろう。
そういう場合に備えて、通常は電球を何種類か持参しておくのだが、そういうトラブルを想定していなかったらしく、その整備士は持っていなかった(あいにくとその時は私も持参していなかった)。
その時点で検査コースが目の前に迫っていて、電球を買いに行く時間も、取り替える時間もなかった。
「ハイマウント外せ」そう言ってドライバーを渡す。外してしまえば装備されていないことになるから、とりあえず審査は通せる。
ビス2本を外してハイマウントストップランプを外し、2本が束になったケーブルを引き出す。あとはコネクタを外してしまえば終わり・・・なのだが、コネクタは内張りの中にあるらしく、コネクタが外まで出てこない。内張りを外している時間はもうないだろう。
「ケーブル切って、帰ったらつなげ」そう言ってペンチを渡す。切らなければ外せないのだから、そうするしかない。
2本のケーブルを一度に切ろうとする若い整備士に待ったをかける。
「ダメだ。一緒に切ったらショートするだろうが。ヒューズが飛んだら左右のストップランプも点かなくなるぞ。一本ずつ切るんだ。場所をズラして切るんだぞ。」
この辺りで半分パニックになったらしく、泣きそうな顔で言われたのが「お金出しますから切ってもらえますか」。
苦笑しながら一本ずつ場所をズラして切断し、切断面がボディと接触しないようにしてからクルマを返した。もちろんお金は頂かなかった。
あの時の整備士とは今でも時々車検場で顔を合わせるけれど、元気にやっているようだ。